母の認知症の通院に、何年も付き添った。
でもそこで「患者」として扱われたのは、いつも母だけだった。
ただ私は、そこにいるだけの人・・
- 認知症の通院付き添いで、介護者がなぜ「透明な存在」になってしまうのか
- ケアマネやスタッフに話を聞いてもらっても、しんどさが証明されない理由
- 精神科・心療内科の受診が「お守り」と「切り札」になるという話
- 介護うつの定義・原因・症状を医学的に整理
- 放置するとどうなるか――悪化した先にある現実
あきなこれは、介護うつについての話
「うつになりました、つらかったです」という話ではなくて、もう少し手前の話。
介護者が追い詰められていくとき、その人を「見ている人」が、どこにもいないという話。
そして後半では、介護うつとは医学的にどういうものか、原因・症状・悪化した先に何があるかを整理したので、体験談と合わせて読んでもらえると、どこかで誰かの「気づき」になるかもしれない・・
母の「患者」としての隣で、私はただ状況を話す人


母がアルツハイマー型認知症と診断されてから、通院は私の仕事になった。
月に一度(2021年頃からは2ヶ月に一度)、診察室に二人で入る。
先生は母に向かって話しかける
- 最近はどうですか?
- よく眠れていますか?
母はうまく答えられなかったり、意味不明・真逆なことを言うので、先生の視線が私に移る。
私が答える。
今月はこういうことがありました、夜中に起きるようになりました、怒りっぽくなっています――。
先生はPCに入力し、いつもどおり薬を出し、「では次回また来てください」と言う。


別に責めているわけじゃない。
そりゃそうだ、先生の患者は母だから、それは正しい。
でも、その正しさのすき間で、私という存在はずっとただ状況を話す人なだけだった。
「認知症カフェ」の案内紙を渡されても、なにかが違った


ある時、受付で一枚の紙を渡された。
介護している家族が集まって話せる場所です、と書いてあった。


ありがたい取り組みだとは思う。
でもそのとき私が感じたのは、「そうじゃないんだよな」という静かなずれだった。
私が必要としていたのは、同じ立場の人と話す場所、ではなかった。
紙一枚では、それはできない。
私が助かったのは、たまたま精神科に通っていたから


介護を始める前から、私はもともと精神科に通院していた。
だから介護うつの症状が出始めたとき、月一回の診察でそれを話すことができた。
- 眠れない
- 何も食べたくない
- 泣けない
- 先が見えない
先生はそれを聞いてくれた。薬を少し調整してくれた。「無理しすぎていますよ」と言ってくれた。
今思うと、それが本当にギリギリのところで私を支えていた。
でも同時に、これは「運」だったとも思う。
もし私がもともと精神科に通っていなかったら、介護うつの症状が出ても・・
症状を症状と認識できないまま、じわじわと悪化していっただろう。
「介護者を支える仕組み」は、一応ある


- 地域包括支援センターへの相談
- 認知症カフェ
- 介護者支援グループ
- ケアマネジャーへの相談……



でもこれらはすべて、介護者が自分から動いて初めて機能する仕組み


介護うつが怖いのは、症状が進むほど「動く気力」が失われていくことだ。
眠れない、食べられない、何もしたくない状態になった人が、自分で調べて電話して出かけていく。それがどれだけ難しいか。
結局、誰かに「気づいてもらう」しかない。
「しんどい」を可視化する方法――診断書というお守り


ケアマネさんやデイサービスのスタッフさんに話を聞いてもらうことは、確かに助けになる。
でも、それで「しんどさ」が記録に残るわけじゃないし、証明されるわけじゃない。
どんなに言葉で伝えても、介護者のしんどさは「見えないもの」のままだ。
だからこそ限界を迎える前に、精神科か心療内科に行ってほしい


受診すると変わること
- 症状があれば病名がつく
- 診断書が出る
- 薬が処方される
精神科の診断書は2つの意味がある


お守り
- 自分のしんどさが本物だったと、誰かに証明してもらえた感覚
- 「気のせいじゃなかった」「弱かったんじゃなかった」という安堵それだけで、少し楽になれる
切り札
- 特別養護老人ホームへの入所申請では、介護者側の状況も判断材料になる
- 介護者が精神疾患の診断を受けているという事実は、「この家庭では在宅介護の継続が困難である」という根拠になりうる
- 言葉だけでは伝わらなかった切迫感が、書類として機能する
しんどさが溢れ出す前に受診する。
それが結果的に、自分を守ることにも、母を守ることにもつながった。
相談支援(カフェ・ケアマネさん等)と医療機関受診の違い


「介護うつ」とは何か?


ここからは、介護うつについて少し整理。
体験談だけで終わらせず、「これって介護うつなの?」と思っている人の参考になれば・・
定義
- 医学的には一般的なうつ病と同じもの「介護」という明確な原因がある
- 原因を取り除く方向での改善が見込める場合もある
- 厄介なのは、初期段階では「介護が大変なだけかな」と本人も周囲も気づきにくい
原因


介護うつの原因は大きく3つ
- 精神的負担
- 終わりが見えない不安、孤独感、認知症の親から感謝されない虚しさ、暴言・暴力によるダメージ
- 一人で在宅介護をしている場合は特に深刻になりやすい
- 身体的負担
- 夜中の介助による慢性的な睡眠不足、移乗・入浴介助による腰や膝への負担
- 休める時間がないまま疲労が蓄積していく
- 経済的負担
- 介護費用の増加、介護離職による収入減
- お金の不安は精神的なストレスをさらに増幅させる



ひとつでも辛いのに、3つ同時に抱えているよー
なりやすい人の特徴


- 責任感が強い人
- 完璧主義の人
- 人に頼れない人
「私がやらなければ」という思いが強いほど、自分の限界を無視して介護を続けてしまう・・
症状――2週間以上続いたら要注意


主な症状は以下のとおり
- 睡眠障害(寝つけない・夜中に何度も目が覚める)
- 食欲不振(食べられない・何を食べても味がしない)
- 慢性的な疲労感・倦怠感
- 憂鬱感・無気力(何もしたくない・やる気が出ない)
- 好きだったことへの興味・喜びの消失
- 思考力・集中力の低下
- 希死念慮(「消えてしまいたい」という気持ち)
これらの症状が1日中見られ、2週間以上続く場合はうつ病の可能性が高い。
悪化するとどうなるか?


介護うつを放置すると、段階的に深刻化
希死念慮
「消えてしまいたい」「もう終わりにしたい」という気持ちが繰り返し浮かぶようになる
介護放棄・ネグレクト
心身が限界を超えると、介護そのものを続けられなくなる
意図せず親の食事や薬の管理が疎かになるネグレクト状態に陥るケースもある
介護殺人
厚生労働省の調査や共同通信の分析によると、2006年度から2024年度の19年間で、家族や親族による殺人や虐待によって死亡した65歳以上の高齢者は少なくとも486人にのぼる
- 年間の平均: およそ20件〜40件前後で推移
- 直近の傾向: 2021年度には37人と過去最多水準を記録しており、減少の兆しは見えていない
- 自殺(介護心中): 警察庁の統計では、「介護・看病疲れ」を動機とする自殺者は年間約250人〜300人ペースで発生しており、殺人事件として表面化するケースは氷山の一角と言える
これは「異常な人」の話ではなく、追い詰め続けた先に何が起きうるか、という話
まとめ:これを読んでいるあなたへ


もし今、「なんか私、しんどいな」と感じていても、それはあなたが弱いんじゃない。
診察室でただ状況を見ながら、母のことだけを話し続けた時間の積み重ねが、そこにある。
かかりつけの先生でも、ケアマネさんでも、誰でもいい。



最近、私自身がしんどくて
と、ひとことだけ言ってみてほしい。
介護者のしんどさは言葉にしないと見えないのが現状・・



自分発信のSOSを出していきましょ


- 認知症の通院では、介護者は「情報提供者」として存在するだけで、患者として診てもらえない
- 認知症カフェなどの支援制度は存在するが、自分から動ける状態の人にしか届かない
- 介護うつの症状が出るほど、助けを求める気力は失われていく
- 介護うつの原因は精神的・身体的・経済的負担の複合で、責任感の強い人ほどなりやすい
- 症状が2週間以上続く場合はうつ病の可能性が高い
- 放置すると希死念慮 → 介護放棄 → 最悪の事態へと深刻化する
- 精神科・心療内科の受診で病名・診断書が得られ、しんどさの「可視化」と特養申請の根拠になる
- 「私はしんどい」と誰かに言葉にすることが、最初の出口になる
